第1章 基本的な概念 - 定理4

定理4.a→αなら|a|<Mとなる定数Mが存在し、|α|≦M。

 

この証明自体は、大きく引っかかるとことはなく、理解が難しいことはなかったが、このあとさんざん悩まされる「<」と「≦」が混在する最初の定理である。

 

この証明で少し考えたのは

|α|>M’>Mならば、|αーa|>M’-M

の部分。不等式の扱いに慣れていれば難しいことはないのであろうが、一応、解きほぐすと、

|α|>M’>M>|a

∴|α|-|a|>M’-M>0

|αーa|>|α|-|a|なので

|αーa|>M’-M>0

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ところで、|α|≦Mはなぜ「<」ではなくて「≦」なのだろうか。|an|<Mだからan→αなら|α|<Mではないのか。収束すると「=」の場合を考慮しなければならないのはなぜか。この疑問に対し、本書はan=1-1/n<1だがα=1の例を挙げているが、念のために|α|≧Mでは矛盾が生じないことを確認してみる。「=」が入ることで矛盾が生じなくなるはずである。


|α|≧Mなので|α|≧M’≧MとなるM’がある。(ちなみに|α|>M’≧MとなるM’も|α|≧M’>Mも存在しない)

従って、

|α|≧M’≧M>|an|

 

∴|α|ー|an|>M’-M≧0

|αーan|>|α|-|an|なので

|αーa|>M’-M≧0

 

異なるのはM’-Mが「>0」ではなく「≧0」という点である。

「>0」であれば、M’-M=εとしたとき、|αーa|<εに矛盾するが

「≧0」であればM’-Mがゼロの可能性があるので=ε(>0)とできず、矛盾を導けない。従ってこの方法で|α|>Mは否定できても、|α|≧Mは否定できないのである。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

この定理のすぐ後に[注意]があり、

「a→αのとき、ある数Mがあって、すべてのnに対してa≦Mならば、α≦Mである」

が示されている。上記の定理4との違いは、aに絶対値が取られていないこと、そして条件「a≦M」が「a<M」ではないこと(等号の場合が含まれていること)である。

ここで、なぜ「a<M」ではなくて「a≦M」なのだろうか。もちろん、「a<M」は「a≦M」の場合に含まれており、「a<M」の時には成立せずに、「a≦M」でないと成立しない、というわけではない。これは、この注部分は、Mの存在を所与としているからであろう。換言すれば、「a→α」からMの存在を証明する必要がないからである。