第1章 基本的な概念 「集積点の集積点」?

「集積点の集積点はやっぱり集積点である」との記述がある。

 

読んですんなりと頭に入らず、以下のように考えた。

  • 集合Sの集積点Aがある。
  • この点Aが無数に存在するとする。
  • すると点Aで構成される集合S'を考えることができる。
  • 集合S'に集積点A'があるとする。
  • A'はSの集積点から構成された集合S'の集積点、すなわち「集積点の集積点」となる。
  • A'はS’の集積点であるが、同時にSの集積点でもある、と(証明なしに)言っているわけである。

 

証明、すなわち、「A'にどれほど近い場所にもSに属する点が無数に存在すること」は以下のようになるのであろうか。

  • A'はS'の集積点であるから、任意の数ε>0について、A'からε/2の距離内にS'に属する点が無数に存在する。
  • そのうちの一つをPとする。PはS'に属している、すなわち、PはSの集積点である。
  • PはSの集積点なので、Pからε/2の距離内にSに属する点が無数に存在する。
  • A'からPまでの距離はε/2なので、「Pからε/2の距離内にSに属する点が無数に存在する」とは、A'からεの距離内にSに属する点が無数に存在するということである。
  • εは任意の正数であったので、すなわちA'にどれほど近い場所にもSに属する点が無数に存在する。
 

第1章 基本的な概念 集積点について

「{an}の中に同じ数aが無数に繰り返して出てくる場合には、aはSの集積点であるとは限らない」

との記述が、すんなりと理解できなかった。集積点Aとは点Aにどれほど近いところにもSに属する点が無数にあること、と定義される。同じ数aが無数にあるのであれば、なぜこれが集積点と呼べないのか?

これは「点」と「集合の1要素」を混同したために生じた誤解だ。いくらaが繰り返しでてきても「点」としては同じ1つの点にすぎない。無数のaが示す点は、ただ1つである。そう考えると、aはそれが無数に繰り返されるといっても集積点とは限らない。

第1章の議論の流れ

実数の切断を定義し、その連続性を説明(附録Ⅰの1~3、セクション2)
有理数の切断A,A'を定義
・切断の「境界」として実数を定義
有理数切断A,A')で有理数の「境界」が存在しない場合、有理数に替わる何かがあると想定して、それを「無理数」と呼ぶ、という議論の流れ。無理数有理数と大小関係がある、と前提を置いている)
*「境界」は明瞭に定義されていないが、「aより小なる有理数はすべて下組に属し、aよりも大なる有理数はすべて上組に属する」との記述が「境界をなす一つの有理数a」の説明としてあり(附録Ⅰの1)
*そのため、境界としての実数が、下組、上組に属する有理数と大小関係があることを示唆しているように思える。すなわち、実数の大小関係を定義するまえに、実数と有理数の大小関係が示唆されている?

・実数の大小関係を、下組集合の包含関係で定義。

・そこから、任意の実数の間に無数の有利数が存在することを導出(α<βならα<m<βを満たす有理数mが無数に存在)・・・①

・実数の切断(A,A')で定義されるαは、Aの最大値、もしくはA'の最小値であることを導出。(有理数の切断時のように、どちらにも属さない場合はないことを証明)

 ー 実数の切断A,A'から、有理数を抜き出した有利数の切断(A,A')を作る。

 ー 有理数切断A,A'は実数αを決める(実数の定義より)

 ー αは実数切断A,A'のいずれかに属する(実数切断の定義より)

 ー αが実数切断下組Aに属する場合、その最大値となる。なぜならば、

   (1)α<βとした場合、α<m<βとなる有理数が必ず存在する(上記①より)

   (2)mは有理数切断A,A'の上組A'に属する。なぜならば、αは有理数切断A,A'の「境界」で、それよりも大だからである。

   (3)従って、mは実数切断A,A'の上組A'に属する。

   (4)従って、β(>m)も実数切断A,A'の上組A'に属する。

   (5)すなわち、α<βとなる任意のβは実数切断A,A'の上組A'に属する。

・すなわち、実数は(切断境界を持たない場合のある有理数とは異なり)「連続」

・Dedekindの定理「実数の切断は下組と上組の境界として1つの数を確定する」

・「有界」「上界」「下界」「上限」「下限」を定義(セクション3)

・上限の定義:集合Sの上限aとは、次の2つを満たすもの。

 (1)Sに属するすべてのxに関してx≦a。(・・・aがSの上界である)

  (2)a'<aとすればa'<xなるある数xがSに属する。(・・・aより小なる上界がないこと)

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上界、上限のイメージ


ワイヤシュトラスの定理を説明し、証明

・「数の集合Sが上方[または下方]に有界ならばSの上限[または下限]が存在する」

・「数の集合」は必ずしも「実数の集合」とは限らない!(はじめ、勝手に実数の集合と考えて理解していたが、「有理数の集合」でも「自然数の集合」でも成り立つ)

・(上方に有界の場合)Sの「上界」と「上界以外」が実数の切断を作る→この切断で定まる数sは「上界」の最小値か「上界以外」の最大値→「上界以外」の最大値とした場合、矛盾が発生→よってsは上界の最小値

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ワイヤシュトラの定理


・「数列」、「収束」、「極限」を定義(εと
n0を使う定義)(セクション4)

・数列の極限に関するいくつかの定理と例を説明

・収束数列の部分数列は元の極限値に収束

・αに収束する数列anについて|an|<MとなるMが存在し、さらに|α|≦M

・収束する数列どうしの加減乗除

有界な単調数列は収束する

・提示される例

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区間縮小法を説明し、証明(セクション5)

・実数の連続性に関する四つの基本定理が同等であることを説明

 -Dedekindの定理(実数の切断と境界の帰属→連続性)

 -ワイヤシュトラの定理(上限または下限の存在)

 -有界な単調数列の収束

 -区間縮小法

・数列{an}が収束するための必要十分条件(Cauchyの判定法);任意のε>0に対し番号nが存在し、p>n0、q>n0のとき|ap-aq|<εセクション6

・「上極限」「下極限」を定義…数列{an}の上限、下限が作る数列の極限

・「点列」と点列{Pn}の極限を定義

・点列{Pnの収束の必要十分条件を説明…2次元でのCauchyの判定法

・「点集合」と「集積点」を定義セクション7

・「有界なる無数の点の集合には、必ず集積点が存在する」(これもワイヤシュトラの定理)の証明

集積点を使ってSが「閉集合」であることを定義

区間縮小法を閉集合の列に拡大

 

函数」を定義(セクション8)

これまで数列であった極限を連続変数に拡大(セクション9)

・ε、δによる極限の定義

・1次元ではなく、多次元(P→A)

・極限の例

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・連続変数へのCauchyの収束条件の拡大を説明。説明のロジックは次の通り。

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連続変数について上極限と下極限を定義

函数がある点aで連続であることをε、δを使って定義(セクション10)

・「左からの極限」「右からの極限」「右への連続」「左への連続」を定義

指数関数について、有理数が定義域にある場合を既知として、極限の考え方を利用して、定義域を無理数に拡大

「中間値の定理」を説明して、証明。1次元の場合と2次元の場合(セクション11)

有界な閉区域で連続な函数有界で、その区域で最大、最小に到達する」ことの証明

・「連続の一様性」を定義して、証明

・内点、外点、境界を定義(セクション12)

・内点を使って開集合を定義

・点集合の間の距離、点集合の径、を定義

・領域、閉域、連結、連続体、近傍、を定義

・曲線、Jordan曲線、Jordan閉曲線、を定義。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1章 基本的な概念 - 上極限と上限、あるいは下極限と下限

収束の条件、Cauchyの判定法(定理8)の附記に上極限、下極限が登場する。一読して、上極限と上限、下極限と下限の差が理解できなかったので、改めて整理する。

 

上限・・・数列{a}が有界のときに定まる値(定理2)

上極限・・・数列{a}の部分数列{a,an+1、・・・}の上限lが作る数列{l}の極限値。({l}は単調で有界なので定理6により、必ず収束し、極限値を持つ)

 

どちらも、同じ数列{a}に対してただ一つ定まる。では、上限と上極限が異なるのはどのような場合か。これは少し考えるとすぐにわかる。上限は1から始まるすべてのnについての値であるのに対して、上極限は初めのn-1項を除外した残り部分の上限について、nを大きくしていった場合の極限である。極端な例を言えば、1項めが100、2項目以降はすべて1となる数列{100,1,1,1,・・・}においては、上限は100、上極限は1である。

 

第1章 基本的な概念 - 定理4

定理4.a→αなら|a|<Mとなる定数Mが存在し、|α|≦M。

 

この証明自体は、大きく引っかかるとことはなく、理解が難しいことはなかったが、このあとさんざん悩まされる「<」と「≦」が混在する最初の定理である。

 

この証明で少し考えたのは

|α|>M’>Mならば、|αーa|>M’-M

の部分。不等式の扱いに慣れていれば難しいことはないのであろうが、一応、解きほぐすと、

|α|>M’>M>|a

∴|α|-|a|>M’-M>0

|αーa|>|α|-|a|なので

|αーa|>M’-M>0

 

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ところで、|α|≦Mはなぜ「<」ではなくて「≦」なのだろうか。|an|<Mだからan→αなら|α|<Mではないのか。収束すると「=」の場合を考慮しなければならないのはなぜか。この疑問に対し、本書はan=1-1/n<1だがα=1の例を挙げているが、念のために|α|≧Mでは矛盾が生じないことを確認してみる。「=」が入ることで矛盾が生じなくなるはずである。


|α|≧Mなので|α|≧M’≧MとなるM’がある。(ちなみに|α|>M’≧MとなるM’も|α|≧M’>Mも存在しない)

従って、

|α|≧M’≧M>|an|

 

∴|α|ー|an|>M’-M≧0

|αーan|>|α|-|an|なので

|αーa|>M’-M≧0

 

異なるのはM’-Mが「>0」ではなく「≧0」という点である。

「>0」であれば、M’-M=εとしたとき、|αーa|<εに矛盾するが

「≧0」であればM’-Mがゼロの可能性があるので=ε(>0)とできず、矛盾を導けない。従ってこの方法で|α|>Mは否定できても、|α|≧Mは否定できないのである。

 

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この定理のすぐ後に[注意]があり、

「a→αのとき、ある数Mがあって、すべてのnに対してa≦Mならば、α≦Mである」

が示されている。上記の定理4との違いは、aに絶対値が取られていないこと、そして条件「a≦M」が「a<M」ではないこと(等号の場合が含まれていること)である。

ここで、なぜ「a<M」ではなくて「a≦M」なのだろうか。もちろん、「a<M」は「a≦M」の場合に含まれており、「a<M」の時には成立せずに、「a≦M」でないと成立しない、というわけではない。これは、この注部分は、Mの存在を所与としているからであろう。換言すれば、「a→α」からMの存在を証明する必要がないからである。

第1章 基本的な概念 - 収束の条件、Cauchyの判定法

定理8.数列{a}が収束するための必要かつ十分なる条件は、任意のε>0に対して番号nが定められて、

p>n、q>nなるとき |a-a|<ε

なることである。



この定理の証明を読んで、最初に引っかかったのは、

 

≦m≦・・・m≦・・・l≦・・・l≦l

⊃I⊃・・・I⊃・・・


の部分。なぜ「⊇」ではなく「⊃」なのか。その上の「≦」が「<」でないのであれば、「⊃」ではなくて「⊇」ではないか。「⊃」については前頁の注に「集合A、Bに関してA⊃Bは’AはBを含む’ことを表す」と定義しているので、ひょっとしてA=Bの場合も含めてA⊃Bを定義しているのかもしれない。しかし、A=Bの場合も含めて「⊃」を定義しているとすると、区間の幅が限りなく小さくなるとは限らず、区間縮小法が使えない。ということは、やはり「⊃」は「⊇」と分けて定義され、A=Bの場合は含めないのであろうか。

 

そこで次のような数列を考えてみた。4個同じ絶対値の数が連続し、4個おきに絶対値が減少していく数列である。

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数式にすれば、例えば次のようなものが可能であろうか。

 

=COS(nπ)/([n/4]+1)

([x]はxの整数部分を表す)

 

例えば、

100=COS(100π)/([100/4]+1)=1/26

101COS(101π)/([101/4]+1)=-1/26

102=COS(102π)/([102/4]+1)=1/26

 

103COS(103π)/([103/4]+1)=-1/26

 

104=COS(104π)/([104/4]+1)=1/27

 :
 :

この数列は直感的にCauchyの条件を満たし、ゼロに収束していくと思うが、「=」を含まない意味での「⊃」では
⊃I⊃・・・I⊃・・・

 

を満たさない。上記例でいえば、

・・・⊃I100I101I102I103⊃I104・・・

となり、「⊃」が現れるのは4回に1回である。他の3回は「⊇」だ。


ということは、本書の「⊃」は「=」の場合を含んだものと解釈すべきなのであろう。


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次に引っかかるのが、「a-a<ε」の時に、aをその上限lに入れ替えると「l-a≦ε」と等号が加わる点。これまで、数列という「動く」ものを極限値という「動かない」固定値に置き換えるとき、等号が加わることは何度か見てきた。ここも同様であろう(時間のある時に確認する)。

 

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さて、本書の「⊃」は「=」の場合を含んだものと解釈すべきであれば、区間縮小法がそのまま利用できないはずだ。区間最小法を使うためには、Iの幅がnが大きくなるに従って限りなくゼロに近づく必要があるが、本書の「⊃」の解釈では、

・・・I⊃In+1⊃In+2⊃・・・

について、あるn>Nについて、すべて「=」となる可能性を排除していない。と、すなわち

・・・IN-1⊃I⊃IN+1=IN+2=IN+3=・・・

となる可能性を否定できない。その場合、Iの幅はIN+1の時が最小で、それ以上ゼロに近づかず、区間最小法が使えない。100回に一回、あるいは、1万回に一回、あるいはそれより少ない頻度でも、とにかく「=」を含まない狭義の「⊃」がどのような頻度であれ出続けることが、区間最小法が利用できる条件だ。

 

狭義の「⊃」が少ない頻度でも出続けることの証明は、「=」が出続けることで矛盾生まれればよい。

n>NでI=In+1=In+2=・・・とすると、

-m=ln+1-mn+1=ln+2-mn+2=・・・=δ

しかし、任意のε>0について、n>N’についてl-m≦εとなるN’が存在するから、ε<δと設定すると矛盾が生じる。

従って、・・・I⊃In+1⊃In+2⊃・・・について、狭義の「⊃」がどのような頻度であれで続ける、すなわちIはゼロに向かって限りなく小さくなる。

 

 

 

第1章 基本的な概念 - Dedekindの切断

定理1.実数の切断は、下組と上組の境界として、一つの数を確定する[Dedekindの定理]。

 

この定理の導出のようなものが付録Iにある。これも一読してすぐに理解できなかったが、何回も読んで、自分なりに次のように整理して理解した。

 

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上記の4~7を視覚的に描いてみた。

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「境界」が定義なしに使われていることが気持ち悪い。とりあえず、aが境界ならば、x<aは下組に属し、x>aならば上組に属するもの、と定義し、aが上と下のどちらに属するかは曖昧なままにしておく。

また、2で有理数切断(A,A’)の「境界」として実数を定義しているが、そこには実数と有理数の大小関係が定義できることが暗示されている。実数の大小関係を3で厳密に定義しているのに、それ以前に実数と有理数の大小関係を利用していることも、気持ちの悪さが残る部分である。

 

(追記)

実数の大小関係について、「mがαの下組に属するならば、上記の定義に従ってm<α」(実数の大小関係の定義についての注意2より)とあるが「上記の定義に従って」とは何か?

αが有理数であれば自明であるが、無理数の場合、定義に立ち返ってみて考えてみた。

αが無理数であれば、mが作る切断を考え、その下組(Mと呼ぶことにする)がM⊂Aとなっていれば、定義によりm<αといえる。mはAに属し、しかもAに最大値がないことから、これは成立していると考えられる。