第1章 基本的な概念 - 収束の条件、Cauchyの判定法
定理8.数列{an}が収束するための必要かつ十分なる条件は、任意のε>0に対して番号n0が定められて、
p>n0、q>n0なるとき |ap-aq|<ε
なることである。
この定理の証明を読んで、最初に引っかかったのは、
m1≦m2≦・・・mn≦・・・ln≦・・・l2≦l1
I1⊃I2⊃・・・In⊃・・・
の部分。なぜ「⊇」ではなく「⊃」なのか。その上の「≦」が「<」でないのであれば、「⊃」ではなくて「⊇」ではないか。「⊃」については前頁の注に「集合A、Bに関してA⊃Bは’AはBを含む’ことを表す」と定義しているので、ひょっとしてA=Bの場合も含めてA⊃Bを定義しているのかもしれない。しかし、A=Bの場合も含めて「⊃」を定義しているとすると、区間の幅が限りなく小さくなるとは限らず、区間縮小法が使えない。ということは、やはり「⊃」は「⊇」と分けて定義され、A=Bの場合は含めないのであろうか。
そこで次のような数列を考えてみた。4個同じ絶対値の数が連続し、4個おきに絶対値が減少していく数列である。
数式にすれば、例えば次のようなものが可能であろうか。
an=COS(nπ)/([n/4]+1)
([x]はxの整数部分を表す)
例えば、
a100=COS(100π)/([100/4]+1)=1/26
a101=COS(101π)/([101/4]+1)=-1/26
a102=COS(102π)/([102/4]+1)=1/26
a103=COS(103π)/([103/4]+1)=-1/26
a104=COS(104π)/([104/4]+1)=1/27
:
:
この数列は直感的にCauchyの条件を満たし、ゼロに収束していくと思うが、「=」を含まない意味での「⊃」ではI1⊃I2⊃・・・In⊃・・・
を満たさない。上記例でいえば、
・・・⊃I100⊇I101⊇I102⊇I103⊃I104・・・
となり、「⊃」が現れるのは4回に1回である。他の3回は「⊇」だ。
ということは、本書の「⊃」は「=」の場合を含んだものと解釈すべきなのであろう。
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次に引っかかるのが、「ap-aq<ε」の時に、apをその上限lnに入れ替えると「ln-aq≦ε」と等号が加わる点。これまで、数列という「動く」ものを極限値という「動かない」固定値に置き換えるとき、等号が加わることは何度か見てきた。ここも同様であろう(時間のある時に確認する)。
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さて、本書の「⊃」は「=」の場合を含んだものと解釈すべきであれば、区間縮小法がそのまま利用できないはずだ。区間最小法を使うためには、Inの幅がnが大きくなるに従って限りなくゼロに近づく必要があるが、本書の「⊃」の解釈では、
・・・In⊃In+1⊃In+2⊃・・・
について、あるn>Nについて、すべて「=」となる可能性を排除していない。と、すなわち
・・・IN-1⊃IN⊃IN+1=IN+2=IN+3=・・・
となる可能性を否定できない。その場合、Inの幅はIN+1の時が最小で、それ以上ゼロに近づかず、区間最小法が使えない。100回に一回、あるいは、1万回に一回、あるいはそれより少ない頻度でも、とにかく「=」を含まない狭義の「⊃」がどのような頻度であれ出続けることが、区間最小法が利用できる条件だ。
狭義の「⊃」が少ない頻度でも出続けることの証明は、「=」が出続けることで矛盾生まれればよい。
n>NでIn=In+1=In+2=・・・とすると、
ln-mn=ln+1-mn+1=ln+2-mn+2=・・・=δ
しかし、任意のε>0について、n>N’についてln-mn≦εとなるN’が存在するから、ε<δと設定すると矛盾が生じる。
従って、・・・In⊃In+1⊃In+2⊃・・・について、狭義の「⊃」がどのような頻度であれで続ける、すなわちInはゼロに向かって限りなく小さくなる。